米津玄師やあいみょんを好んで聴く僕はルサンチマンに囚われているのか【武器になる哲学】
ルサンチマン【ressentiment】───────────────────────────
〘哲〙 ニーチェの用語。被支配者あるいは弱者が、支配者や強者に対してため込んでいる憎悪やねたみ。
中略
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熱心に音楽を聴いていたのはいつ頃までだろうか。
記憶をたどるに、高校生までだ。
大学生、それも3年生くらいになるとめっきり新しい音楽を聴かなくなってしまった。
昔好きだった音楽を聴きながら、「昔の曲の方が良いよね」なんて会話をよくするようになった。
音楽以外にも、新しいことをするのを億劫に思うことが多くなった。
発売が待ち遠しかったゲームを、買ってすぐ積んでしまうことが増えた。
新しい操作を覚えるのが煩わしい…。
だんだんと、"知らないことを知る"ときのストレスに耐えられなくなってきていることに気づいた。
生まれたときは知らないことだらけだから、知らないことが当然で、自然に受け入れることができた。
でも20歳を越えて、世の中の多数のものは知っている状態になった。
"新しい"ものが珍しくなった。
それを受け入れるときの負荷を知覚した。
「これが歳をとったということか。」
そう気づいたとき、僕は恐ろしくなった。
老害。
この世で最も嫌いなもののひとつ。
自分が歩んできた道、生きてきた人生こそがすべてだと根拠もなく確信し、新しく起こったムーブメント、若い世代の価値観を全否定する。
テレビにはよく"老害"が映る。
時代は"変化"するものだ。
取り残されているのは"お前"だ。
そいつらを見て心底毒づいた。
醜い。
そこにはきっと同族嫌悪が含まれていた。
変化していかなければ、新しいものに触れなければ。
それからというもの、僕は若い世代の流行(=世の流れ)をチェックしなければという意識を持つようになった。
音楽は、ファッションは、何が流行っているのか。
とにかく「老害に片足突っ込みかけた自分」、「時代に取り残された自分」が嫌だった。
昔話しかできない大人にはなりたくない。
すべてを追いかけるのはさすがに億劫だったので、自分なりの基準を設け、対象を絞った。
具体的には、その時代の最大公約数的なものだけは逃さないように、というもの。
聴きなれないEDMを聴いたり、Aラインの服を着るようにした。
良さがわからないものも、「ちょっと良いかも」と思えるまでそれに触れ続けた。
そんな風にして、2年ほどが経った。
僕は最近、米津玄師やあいみょんの音楽を好んで聴く。
通勤途中、家で作業しているとき、能動的に流す。
そこに無理はない。
彼/彼女は現在の日本の音楽シーンの最大公約数と言って差し支えないと思う。
ようやく、現在の流行が生活に馴染んできた。
上手く廻っている。
"時代に乗る"ことに成功している自分に満足していた。
心に平穏が訪れた。
ある日、ひとつの本を手に取った。
それは哲学の本で、著名かつ実用的な哲学の概念を簡潔に説明してくれるものだった。
本のコンセプトも中身も非常に面白く、みるみるページが進んだ。
「ルサンチマン」の章に入った。
聞いたことあるぞ。ニーチェだっけ。
弱者が強者に対して持つ、妬みや嫉みのことらしい。
これを抱えた人間は、次の2つの行動でもってそれを解消すると書かれていた。
「ひとつめは…、」
………!
そこに目をやった瞬間、胸の奥がチクリとした。
これはまさしく、今の僕のことではないだろうか。
若い人たちは変化というものに対して間違いなく強者だ。
知らないことだらけだから、それを面倒だとも怖いとも思わない。
僕は妬ましかった。そちら側でない自分が嫌になった。
そしてそれに寄り添うことで、僕は心の中のもやもやを解消していたことに気が付いた。
ここでひとつの疑問がわいた。
"僕は本当に米津玄師やあいみょんを聴いていたのだろうか。"
彼らの音楽が頭に流れていたのだろうか。
頭の中にあるのは、「米津玄師やあいみょんを聴いている自分の像」であって、ただそれに安堵していただけではないだろうか。
生活に馴染んでいる。
自然に取り入れられている。
そう思っていたけれど、実は「新しい世代の音楽を取り入れられている自分」を自分に対して演出していただけなのかもしれない。
全身から汗が噴き出した。突きつけられた認めたくない真実。
殺人犯が名探偵に指をさされたらこんな感じなのかもしれない。
自分が今までしてきたことはなんだったのだろう。
虚しくなって悲しくなって、兎にも角にも考えるのをやめた。
2つ目のルサンチマン解消法をみる。
②ルサンチマンの原因となる価値判断を転倒させる。
とあった。
僕はズッコケた。
これって結局最初の「昔の曲の方が良いよね」ってやつじゃん。
ろくに聞くことをせずに、昔の音楽を持ち出してマウントをとっていたあの頃。
振り出しに戻った。
聴こうと寄り添ってもルサンチマン、聴かずに突き放してもルサンチマン。
どういう行動をしてもルサンチマンに囚われているってことになってしまうじゃないか。
僕はどうしたら良いのか。
ルサンチマンが良いものなのか、悪いものなのか 、どう付き合っていけばよいのか。
すぐにはわかりそうもなくて、僕は本を閉じた。
今度ちゃんと調べてみよう。
でも結局のところ、僕が若人に対してルサンチマンを抱いているってことだけは確からしい。
そんなことを思いながら、僕は何とも言えない気持ちでこのキーボードをたたき始めた。
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